第14話 落ちた場所で生きる

小さな種を手に取ってじっくりと眺めてみる。
そのたびに、「これがあんなに大きな野菜になるのか?」と不思議に思う。
この一粒の中に、芽を出して葉っぱを広げ、花を咲かせて実をつけるいろいろな“素”が詰まっているんだ……と感心してしまう。

子どもの頃に育てたアサガオやヒマワリの種は、それでも大きい方で、吹けば飛ぶような、それこそタンポポの種のような、小さな種もある。取り扱いには注意しなければならない。
ニンジンの種なんて、だ。
いやいや、文章の書き間違いではなく、掌に載せてみてもニンジンの種の一粒一粒は「、」でしかない。もう「、」にしか見えないのだ。
小さい種は「スジまき」という蒔きかたをして、一粒一粒を丁寧に植えていくのではなく、畑の畝に溝をつくり、そこにスーッと一列に種を蒔いていく。
つまり、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、と種を蒔いていき、成長の過程で大きい株だけを残し、間引きをしていく。

カブの種も小さい。
その昔、いざ、カブの種をスジまきしようとして、畑に入ったところ、足をすくわれ種をぶちまけてしまった。
こうなってしまうともう収拾がつかない。畑のまん中でただ茫然と立ちつくしているほかない。拾い上げようにも土にまぎれてどこに種があるのか、探し当てることは無理なのだ。
数日後、カブの種たちは畑のあちこちから芽を出していた。
ぶちまけてしまったその場所で種はしっかりと根をはり、芽を出していたのだ。驚くべき生命力。小さなカブの種は、ぶちまけられたその場所で、生きることを決めたのだ。

その昔、アスファルトの隙間に生えたダイコンが「ど根性ダイコン(通称大ちゃん)」として紹介されていたが、蒔かれた種はその環境で成長しようと根を張っていく。
悲しいかな。
種たちには根をはり、葉を伸ばす環境を選べない。
だから、できるだけ生育に適した良い環境で育てたいと思う。

以前、車の中でチンゲンサイの種をぶちまけてしまった。
残った種を袋に入れていたのだが、袋の口が開いていたらしく、車が揺れた瞬間に開いた口から種がバラバラとこぼれ落ちてしまった。
さすがに車の中で種は根をはらないだろうし、大きくなってしまっても困る。
小さな種一粒ずつ指でつまみ上げ、袋に戻していったけど……。

きっとまだ、車の中で発芽を待つチンゲンサイの種が残っていると思う。

(2020.01.29:コラム/遠藤洋次郎)