第9話 はらぺこあおむし

幼い頃、絵本で読んだ「はらぺこあおむし」

リンゴを食べて、なしを食べて。
ソフトクリームやソーセージまでも。
お腹をこわしたはらぺこあおむしは、緑の葉を食べて…やがてさなぎになり、最後はチョウに変身する。

仕掛け絵本の丸い穴に指を突っ込んで遊んでいたあの頃。
鮮やかな色づかいとあおむしの丸い顔が可愛らしくて。
何度も読み返した僕の大好きな絵本の一つ。
そして今、はらぺこあおむしは、うちの畑にうじゃうじゃいる。
ハクサイやキャベツの葉っぱの奥。
野菜のお布団にくるまれて、寒さをしのいでいるのかな?
緑の葉っぱもたくさん食べて、どんどん大きくなっていく。
立派なチョウになって羽ばたいていくのかな?

そんなはらぺこあおむしを見つけては、つまんでポイッと放り投げる。
野菜作りにおいて、このはらぺこあおむしは敵である。
油断していると、キャベツはあっという間に完食されてしまう。

今年の夏、ポットに植えていたキャベツがようやく芽を出してきたところ、目を離していた隙にすべて食べられてしまった。
悲しいかな。葉脈の部分だけ残された幼いキャベツの葉は、すべての肉を失い骨のようになっていた。

多少の殺虫剤は散布するが、それでも生きるのびるあおむしはたくさんいる。
相手も生きるのに精いっぱい。でもこっちも美味しい野菜作りに常に格闘している。
チョウチョが飛び交う穏やかな田園風景。実はその中に、生き残りをかけた静かなサバイバルゲームが繰り広げられているのだ。
ただ、僕自身、あおむしのフォルムは嫌いじゃない。
むしろ「かわいい」と思ってしまう。
あの絵本の情景と重なるのか。
鮮やかな緑色で、ちょんと指先に乗せるともぞもぞ動き、びっくりして体を丸くする動作も見ていてかわいい。
農園の参加者はみな悲鳴を上げるが、僕はその姿を見つけると、思わず微笑んでしまう。

かわいいけど憎らしい。

キャベツを食べたあおむしはキャベツの味がするというが、さすがにそれをやってみる勇気はない。

(2020.12.18:コラム/遠藤洋次郎)