第6話 間引きの作業がイヤ

正直なところ、「間引き」の作業がイヤだ。

「間引き」とは、苗が密集して伸びてしまい、土の中で栄養の取り合いになるから、元気な苗だけを残し、ほかの苗を取り去っていく作業のこと。
今の時期は、ダイコンやカブ、ニンジン、チンゲンサイやホウレンソウといった作物を大きくするために、畑にいってはこの「間引き」の作業を行っている。

一つの苗を大きくするために、他の苗を犠牲にする。
心が痛むのだ。
こんな感情が湧きあがるのは、自分のこれまでの生い立ちが重なってくるから。やっと芽を出したのに。ここまで大きくなったのに。
もっと美味しくなるかもしれないのに…。
他の苗が、自分より少し元気がいいからって、なぜ自分が引っこ抜かれなきゃならないのか。

「不条理だ!納得いかない。僕だってこれからもっと大きくなる可能性を秘めている…もっと美味しくなるかもしれなっ…ギャアアアアアアアア!」

間引いた苗を手にすると、まだ伸びきっていない細くて白い根っこに、少しだけ土が残っている。細い根っこから栄養を吸って、生きよう、伸びようという思いがうかがえる。

「残念だが…僕の成長はここまでだ。残ったやつは、これからもっと大きくなる、もっと美味しくなる。やつのことを…頼む。ガクッ」

「なぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぇぇ!」

そんなシーンを勝手に想像して、目頭を熱くしている。

農作業をしていても、人間世界と同様に、生き残るための「競争」というのはついてまわるものなのだと、しみじみ感じる。
僕自身これまでも、いろいろなところで間引かれてきた。
受験や就職試験、いろんなオーディション。
仕事も恋愛の経験も、「この人はダメ」といわれ放り投げだされることも多々あった。
それでも、今、この場所で根を張って生きているわけだから、人として大きく、美味しくなっている部分もあるんじゃないかな?

あと、午前中に間引いてきたチンゲンサイは、炒め物にして美味しくいただきました。

(2020.11.27:コラム/遠藤洋次郎)