種をまけば、植物はやがて芽を出し花を咲かせ、勝手に実をつけるものだと思っていた。
「あとはテキトーに水をまいていれば、何とかなるでしょう」
小学生の時に育てていたアサガオもヒマワリも、そんな感じで大きくなっていた。だからなのか「農作物を育てるのなんて余裕じゃない?」なんて気持ちもあった。
浅はかだった。
その裏では園芸屋さんが良い種を選び、良い土を準備していたことなど想像もしなかった。
ここで言う良い土とは、ほどよい軟らかさで、通気性が良く、養分も十分に含んだ土。野菜たちが大きくなるのに欠かせない環境と条件が整っている土のことである。
農家のスタートはまずこの『良い土』を作るところからはじまる。
作物の出来はこの『土づくり』で決まるといっても良い。近所の農家さんも、
「土づくりがちゃんとできれば8割は大丈夫。一番大事なのは土だね」と言っていた。
「で?その土づくりってどうするの?」「テキトーに肥料まいて耕せばいいんじゃない?」
この考えも浅はかだった。
土づくりはコレという決まったマニュアルがあるわけではない。野菜ごとに適した土壌というものがあるし、肥料が多すぎるのも問題。土の硬さも畑によってさまざまだ。
土づくりの仕方だけでも一冊の本ができてしまう。たまに読んでいる園芸雑誌も「土づくり特集」が組まれると、土だけで何十ページにもわたって紹介されている。
それだけ手間のかかることだし、奥の深いことだし、農家の皆さんも頭を悩ませている。
園芸雑誌を購入し目を通してみたが、正直なところ読んでいるだけでも
「うへぇ~土づくりってこんなこともするの?めんどくせ~」と声が漏れてしまうほどだ。
『段取り八分、仕事二分』という言葉がある。
これは事前の準備をあらかじめ終わらせておけば、仕事の8割は完了しているという意味で、僕自身もラジオ番組やイベントの仕事に携わるときに、よくこの言葉を耳にし、事前の準備に多くの時間をかけていた。
この言葉はもちろん農業にもあてはまる。
農家さんの言った「土づくりがちゃんとできれば8割は大丈夫」という言葉もまさにそれ。
種をまく前に、苗を植える前に、しっかりとした土づくり。
事前の準備を怠ってはならない。
春の息吹感じる季節。鍬を持って畑へ出かける。雑草広がる畑を目に、思わず声が漏れる。
「うへぇ~これ全部耕すの?めんどくせ~」
……もう一度言おう。この時期の事前準備を怠ってはならない。
(2021.03.12:コラム/遠藤洋次郎)