第22話 ビールの誘惑

先日、畑の準備を…と土をほじくり返していたところ、出るは出るは!大量のナメクジ!しかも丸々と肥え太り、中には子どもの親指くらいの大きさのものもいる。

ナメクジが飛び出てくるたびに、「うわっ!でかっ!ええ!?ここにも?」と声を上げてしまう。土の中でぬくぬくとしていたナメクジどもがうごめいている。一匹ずつ指でつまんでは「えいっ!」と放り投げた。

ナメクジは悪食なので、畑のものは何でも食べてしまう。ようやく小さな芽を出した作物も、瞬く間にかじりついてダメにしてしまうのだ。

土づくりの工程の一つに、害虫の駆除がある。

害虫たちが悪さをする前、まだ卵や幼虫の時に対処しなければならないのだが、全部が全部駆除できるわけではない。なるべくなら農薬は控えたいし、そうかといって一つ一つ、それこそしらみつぶしにつぶしていくのも面倒だ。

種や苗を植えつける前に、まずはこのナメクジを何とかしなければならない。

ナメクジには塩をふりかければいいともいわれるが、畑に塩をまくことはできない。土の中の塩分濃度が上がってしまい、成分のバランスが崩れてしまうのだ。もちろんナメクジ駆除に特化した市販の殺虫剤を購入し畑に撒くという手もある。

他に何かいい手はないものか、といろいろ調べていく中で見つけたのは、ペットボトルにビールを入れた「トラップづくり」。そう、罠を仕掛けるのだ。

ナメクジはビールのにおいが好きらしく、ビールのにおいに誘われて、ペットボトルの中にポトリと落ちる。やがてナメクジはビールに海に溺れ死んでしまうという寸法だ。

作り方を見てみると『ペットボトルを半分に切り取って、中に飲み残しのビールをその中に入れ、畑に設置する。簡単に作れるので、ぜひやってみてください』と書かれてあった。

「ちょっと待て!ビールを飲み残すことなどありえない!注がれたグラスはカラにするのが私のモットーだ。ナメクジにくれてやるビールなど我が家にはない!」

「まったく。ビールを好むなんて、なんて贅沢な奴だ」と憤りを感じながら、晩酌用にと冷蔵庫に入れてあったビールを一缶取り出してみた。すると、さらにその奥に、何か月も入れたままのビールがチラと顔をのぞかせた。手に取ってみると、あらら賞味期限が切れている。

「待てよ?賞味期限が切れているビールならば、イケるか…?」

さあさあナメクジたちよ。春の宴とまいろうか。互いにビール好きとは気が合うじゃないか!ともにビールをあおり、この春を謳歌しようぞ!

私は悪魔の笑みを浮かべながら、空いたペットボトルにハサミを入れ始めた。

(2021.03.26:コラム/遠藤洋次郎)

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