第30話 ひとりでできるもん?

前に書いたコラム『マルチがけの職人』を読んだという農家の方から、

「ようじろうさん。私一人でマルチがけやっていますよ」と声をかけられた。

真っ黒いビニールのシートを3人一組になって、畝の上に慎重に張っていく。そんなことを書いていたコラムだったが、そのマルチがけを一人でやっているというのだ。

「ああ、マルチがけの機械ってありますもんね?」と返事をしてみたが「そんなものは使っていない」と言う。

果たして一人でマルチがけができるのか?気になったのでいろいろ調べたところ、一人でやるマルチがけの方法を解説した動画が見つかったので、さっそく見てみた。

動画に登場したのは職人オーラ漂う貫禄のあるおじさん。農作業ファッションもしっかり板についている。

まずは土を耕し、畝を立てる。時間短縮のため早送りの映像になっていたけれども、何とも手際が良い。みるみるうちにまっすぐの畝が出来上がる。

そしていざ、マルチがけ。

おじさんはロール状になっているマルチをスルスルスルと伸ばしていき、ふわっと畝の上へかぶせてみせた。そして畝の両サイドから土を集めてマルチを固定させていく。

これぞ職人技!見事である。

では実際にやってみよう!と、私も幅60センチ、長さ3メートルほどの畝にマルチのシートをかぶせてみた。

用意したマルチにはまん中に線が入っていて、その線を中心にマルチを伸ばしていけば、畝にまっすぐに延びたみごとな“マルチがけ”ができるはず、である。

ところがこれがうまくいかない。

マルチは風にあおられるわ、中心線はズレていくわで、いびつに曲がっている。

なんと言うか…一人でのマルチがけはできた。できたけれども、決して見栄えのいいものではなかった。協力者があって初めてみごとなマルチがけができるのだと痛感したのである。

農家の方から、一人でやるマルチがけの方法も教えてもらった。

少しずつマルチを伸ばして、畝の幅に合わせて大きく足を開き、しわにならないようピンと張ったマルチを両足でしっかり踏んで固定させ、足元に重しとなる土を載せていく。

なるほど。時間はかかるけれども、一人でできないこともない。

でもなんだか畝の幅が狭くなっているような気がする。

なぜ畝の幅が狭くなってしまったのか?

大きく足を開いてみても大きく広げられない自分の足の短さが原因であることに、さっき気づいた。

(2021.05.21:コラム/遠藤洋次郎)