第42話 地獄の軽自動車

秋の風が吹きはじめ、農作業をするにも絶好のシーズンが到来!

9月のこの時期、ハクサイやダイコンと言った冬野菜の種まきと、来年の収穫を見すえてタマネギなど植えてく。

夏野菜の片づけを終え、耕した畑を眺め、またこの畑がいろいろな野菜たちでにぎわうことを思い描きながら「この場所にダイコンを植え、ここにはカブ、隣にハクサイ。こっちはマルチをかけてタマネギの苗を植えていこう」などと計画を立てる。

さて、その準備と言うことで、必要な種や苗、資材を購入しに近所のホームセンターまで、相棒の軽自動車を走らせた。

もう5年ほど乗っている軽自動車は、サラリーマン時代に通勤用として購入したもので、営業マン時代にはこの車に乗って新潟県内をあちこち走り回り、東京に行くときなんかも、この車で高速道路を走った。

もちろん今も生活の足として活躍している。ただ、畑仕事を始めてから、泥だらけの長靴のまま運転をしたり、使い古した軍手だの、土のこびりついた鍬だのも入っていて、すっかり農耕用の車と化してしまった。

さて、今回のお買い物は、畑にまく肥料の「鶏糞」そして昨年大好評だったニンニクの種。

鶏糞は後ろのトランクに……と思ったら、じょうろや剪定ばさみなど、なにやらいっぱい入っていたので仕方なくうしろのシートに。

ニンニクは助手席に置いて、「さて」と車に乗り込むと……車内は地獄であった。

密閉された袋からも漏れ出てきているのであろう。発酵した鶏糞のツンと刺すような臭いがあっという間に車内に充満したかと思うと、助手席にいるニンニクからもあの独特の臭いが広がってくる。

まだ暑い日だったのでエアコンをつけると、送風口からは生温かな空気が入り込み、鶏糞とニンニクの混ざり合った、なんとも言えない、むせかえるような臭いが一気に車内に拡散されていった。

慌てて窓を開けたが、改善の見込みはない。刺激臭に耐えながら、鶏糞とニンニクを物置小屋にしているビニールハウスに運びんでいく。

合計60キロの鶏糞とニンニクをハウスの中に運び終え、車内の換気と窓を全開にしたまま外で一服。さて、そろそろ臭いは薄まっているかと再び車に乗り込むも、消えていない!

いつの日か、助手席にステキな女性を乗せて、海岸線をドライブすることを夢見ている。

私のセレクトしたミュージックをかけロマンティックな気分に浸りながらハンドルを握る。

うん。この車じゃ無理だ。誰もこの車に乗せることはできない。

(2021.09.10:コラム/遠藤洋次郎)