畑仕事を始めたばかりの頃、初心者でも簡単に育てられて手間もかからない、種を蒔いたらそのまま放置しても構わないような、そんな都合のいい野菜はないだろうかと探してみた。
ホームセンターの種コーナーに並んだ、さまざまな種。袋を見返すと育て方も載っている。
水はけのよい土で、土壌酸度はpH6~6.5。養分を漉きこんだ畑に、幅○センチの畝を立てて、不織布を覆い、害虫の対策は……ああ、もう何を言っているのか分からない!
求めているのは「種を蒔く」「水をやる」「育つ」の簡単な順序で手間暇かけずに楽しめるお野菜。ついでに言うならプランターでも育つ、超初心者向け簡単お野菜。
そんなに都合のいい野菜は見当たらなかったけど、その時手にしていたのはペパーミントの種。『プランターでも美味しいミントが簡単に収穫できます』といううたい文句に、「これだ!」と思い、土とプランターといっしょに種を買い、さっそく育ててみることに。
夢がふくらむ。
以前、バーテンダーさんから教えてもらった美味しいハイボールのつくり方。
ハイボールのジョッキに氷とウイスキー。炭酸水は氷に当たらないようゆっくり注ぐ。マドラーでかき回すときもグルグル回さずゆっくりと1回、2回…。最後に軽く手でたたいたミントを添えて爽快感をプラス。
「これだ。我が家でこれを実践するのだ。ああ、待ち遠しい。早く芽を出せペパーミント!」
やがてプランターからミントの小さな芽が出てきた。
この芽が出てくる瞬間はいつだってワクワクする。そして最高にうまいハイボールへの思いがより色濃くなってくる。
ペパーミントというものは繁殖力が強く、それゆえ、誰でも簡単に育てることができるのだが、我が家のプランターでも思いのほかたくさんのペパーミントが葉をつけた。
そぉっと漂ってくる爽快なミントの香り。一つつまんでみると指先からも爽やかな香りが漂ってくる。
ミントの葉を何枚か収穫し、待ちに待った一杯をつくる。できあがったハイボールは炭酸が勢いよくはじけ、自ら育てた摘みたてのミントの香りが鼻腔をくすぐる。のどが鳴る。
「ああ、幸せ~…この一杯を待っていたのだ。」
ペパーミントは大収穫だった。摘んでも摘んでもなくならないくらいに繁茂した。
だが、ハイボールに添えるくらいしかミントの使い道を考えつかなかった私は、その日、かるくボトルを空け、かるく意識も飛ばしていた。
(2020.02.12:コラム/遠藤洋次郎)