第28話 生長のスピード

毎日のようにじっと、育苗ポットにまいた種から芽が出てくるのを見つめているけれども、これっぽっちも芽が出てこない。

「水が足りない?気温が低い?種のまきかた間違えた?肥料が少ない?なんで?なんで?」

確かに水が足りないのかもしれないし、外もまだまだ発芽に適した温度になっていないのかもしれない。肥料が足りないのも原因かもしれないし、種そのものに問題があるのかもしれない。

もちろん芽が出てこない原因は何かしらあると思う。

それでも、何で芽が出てこないのか。不安にもなるし、正直なところ、ちょっとやきもきしてしまう。

でも、いくら人こっちやきもきしたって、種には種の事情がある。こっちの思うようにいかないことの方が多い。

今日種をまいて明日芽が出て、明後日には実をつける。そんな人間様の都合のいいようにはできていない。冬にキュウリが食べられたり、夏にハクサイが食べられたりもするけれども、野菜にだって旬があり、適した環境で育ったものの方が美味しい。

5月になるとちょっと憂鬱な気分になる。“5月病”というくらいだから、みんなメランコリックな気分になるのかもしれない。

4月から新しい生活をはじめても、最初の思いや勢いはどこへやら。5月になってなんだか世の中の風当たりの強さや、慣れない環境に戸惑って、気分がダウンしてしまうことも多い。

きっと、他人と比較されて、自分が人よりも劣っているなんて感じてしまうのも、この時期なのかもしれない。確かに自分が社会人になったばかりの頃や、生活や仕事の環境が変わったとき、ちょっと気分が落ちてしまうこともあった。

「自分はなんで芽が出ないのか?」「なんで人と同じことができないのか?」

とかくスピード重視ですぐに結果を求めがちな昨今。確かに早く、正確に答えを導き出すことは大事だと思う。でも、土いじりをしていると、この「早く」というのが難しい。

その野菜にはその野菜なりの事情があるわけだし、こっちがいくらせっついたって、急に芽が出たり、実がなるわけでもない。発芽の勢いも違えば、実の付き方もみんな違う。やきもきしたってしょうがないのだ。

で、今回何が言いたかったというと……

人間だっていろいろだし、生きている環境もそれぞれ違うのだから、生長のスピードも人それぞれ。あまり結果を急がなくてもいいんじゃないかな?

育苗ポットを眺めながら、ぼんやりそんなことを思う5月なのでした。

(2021.05.07:コラム/遠藤洋次郎)