今年の農園のハクサイは順調に大きくなっている。
「こんなに小さな葉っぱだったお前が、よくここまで大きくなったもんだ。うんうん。」
わが子の成長を見守る親心にも似た思い。
そんなまなざしでハクサイを見つめている。
去年のハクサイづくりは思うようにいかず、葉っぱは大きくなったけれども結球(葉っぱが丸まってボール状になっていく)しなかった。
気象条件などもあったが、種を蒔くタイミングを間違えていたのも原因の一つ。
今年は、ここだ!というタイミングで種を蒔き、今のところ天気の影響を大きく受けることもなく、大きくなっている。
さて問題は、どのタイミングで収穫しようか?と言うことである。
日に日に寒くなり、お鍋の恋しい季節である。
自分たちの育ててきたハクサイを、ドーンとお鍋に放り込んで、熱々のところをいただきたい。
寄せ鍋、水炊き、キムチ鍋、カモ鍋、石狩鍋、ミルフィーユ鍋。
土鍋から湧き上がる白い湯気。
出汁や具材の茹で上がるクツクツという音。
鍋恋しさに、脳裏には鍋を囲む食卓の風景が広がる。
「よし、今夜の鍋の主役は君だ!」
そう思って一つのハクサイに手を伸ばしたところ、知り合いの農家さんに
「それ、まだ大きくなるよ。残しておいた方がいい。」
と言われた。
「じゃあ、君だ!」
「ああ、それももうちょっと丸くなる。あとちょっとだな。」
「う~ん…じゃあ…。」
種を蒔くタイミングも重要であるが、収穫するタイミングも重要である。
このタイミングを逸してしまうと、美味しさの旬を逃してしまう。
物事には「今だ!」という瞬間がある。
「今がこのとき」という絶好のタイミング。
だから慌ててもしょうがないし、そうかと言って、のんびりもしていられない。
頭の中に「究極の鍋料理」の姿をイメージしながら、今日もハクサイの様子を観察する。
結球の引き締まり具合はどうか?
重さは?硬さは?
じっと、その瞬間を待ち構える。
「まだだ。もう少し大きくなる。いや、今じゃないのか?コレはイケるんじゃないか?」
ハクサイに囲まれた畑のまん中で、今日も一人、そんな葛藤を繰り返している。
(2020.11.20:コラム/遠藤洋次郎)