第20話 『土づくり』が8割

種をまけば、植物はやがて芽を出し花を咲かせ、勝手に実をつけるものだと思っていた。

「あとはテキトーに水をまいていれば、何とかなるでしょう」

小学生の時に育てていたアサガオもヒマワリも、そんな感じで大きくなっていた。だからなのか「農作物を育てるのなんて余裕じゃない?」なんて気持ちもあった。

浅はかだった。

その裏では園芸屋さんが良い種を選び、良い土を準備していたことなど想像もしなかった。

ここで言う良い土とは、ほどよい軟らかさで、通気性が良く、養分も十分に含んだ土。野菜たちが大きくなるのに欠かせない環境と条件が整っている土のことである。

農家のスタートはまずこの『良い土』を作るところからはじまる。

作物の出来はこの『土づくり』で決まるといっても良い。近所の農家さんも、

「土づくりがちゃんとできれば8割は大丈夫。一番大事なのは土だね」と言っていた。

「で?その土づくりってどうするの?」「テキトーに肥料まいて耕せばいいんじゃない?」

この考えも浅はかだった。

土づくりはコレという決まったマニュアルがあるわけではない。野菜ごとに適した土壌というものがあるし、肥料が多すぎるのも問題。土の硬さも畑によってさまざまだ。

土づくりの仕方だけでも一冊の本ができてしまう。たまに読んでいる園芸雑誌も「土づくり特集」が組まれると、土だけで何十ページにもわたって紹介されている。

それだけ手間のかかることだし、奥の深いことだし、農家の皆さんも頭を悩ませている。

園芸雑誌を購入し目を通してみたが、正直なところ読んでいるだけでも

「うへぇ~土づくりってこんなこともするの?めんどくせ~」と声が漏れてしまうほどだ。

『段取り八分、仕事二分』という言葉がある。

これは事前の準備をあらかじめ終わらせておけば、仕事の8割は完了しているという意味で、僕自身もラジオ番組やイベントの仕事に携わるときに、よくこの言葉を耳にし、事前の準備に多くの時間をかけていた。

この言葉はもちろん農業にもあてはまる。

農家さんの言った「土づくりがちゃんとできれば8割は大丈夫」という言葉もまさにそれ。

種をまく前に、苗を植える前に、しっかりとした土づくり。

事前の準備を怠ってはならない。

春の息吹感じる季節。鍬を持って畑へ出かける。雑草広がる畑を目に、思わず声が漏れる。

「うへぇ~これ全部耕すの?めんどくせ~」

……もう一度言おう。この時期の事前準備を怠ってはならない。

(2021.03.12:コラム/遠藤洋次郎)

第19話 実録!農業検定

10回目のコラム『この冬の挑戦』で、農業検定1級の試験を受ける予定だというようなことを書いていた。結果については後日改めて、という伏線を回収しなければならない。

試験を受けたのは2021年1月6日。

実はこの検定試験、試験の日時と場所を自分で選択することができる。試験を受けられる期間が設けられていて、自分のスケジュールに合わせて「この日、この場所で試験を受けます」と、申し込みの時に申請する。

きっとこのお正月もダラダラと過ごすんだろうな……そんな思いを打ち破るべく、試験日は正月明け早々に。試験時間も頭が回り始めるお昼前の時間に設定。ありがたいことに家から車で10分もしない近所のパソコン教室で試験を受けることができた。

パソコン教室に入ると、受付で農業検定を受験しにきた旨を伝え、担当者から試験についての説明をひと通り受ける。

不正防止のため、持ち物はすべて専用のバッグに入れる。

「ではコチラ、ご案内します」

と、楽しげなパソコン教室とは別の部屋、検定試験用の部屋に案内された。

簡素な事務机の上に置かれたパソコンのモニター。

左右はパーテーションで仕切られ、イメージとしてはマンガ喫茶の個室に近いものがある。とは言ってもなんとも殺風景な部屋。

???試験が終わるまでは、誰もこの部屋から出ることはできない。

ホラー映画のキャッチコピーのようなフレーズが頭をよぎり、そう思うと、緊張がどんどん膨らんでくる。

パソコンの画面上に問題文と選択肢が表示され、正解だと思うものをクリックしていく。

試験時間は70分。問題は全部で70問の140点満点。

正答率70%で合格。1問につき1分以内に答えを選び出さなければならない。

画面上にある『試験開始』ボタンをクリックすると、1問目の問題が表示され、それと同時に試験終了までのカウントダウンが始まる。画面の隅でちらちら動く、この“減っていく時間”がさらに緊張をあおり、焦りを生む。

1問目の問題文に目を通す。そこはやはり1級、最初の問題から何を言っているのか、何を答えて良いのか全く分からない。

過去3年分の過去問を解き、試験の傾向をつかみ、しっかり対策を練って臨んだつもりだったが、自信を持って答えられる問題などほとんどなかった。

その農業検定1級の結果が届いたわけだが、私の結果、140点満点中104点。

正答率74%。

ありがとうございます。ギリギリ合格しました。

(2021.03.05:コラム/遠藤洋次郎)

第18話 となりの畑は青い

 

インスタグラム(yojiroendoのアカウントで)やっています!フォローしてね。

仕事の写真、プライベートの写真なども載せているけれども、主に農作業の記録用として。

この時期に畑を耕した。種を蒔いた。去年の今ごろはこんな野菜を収穫していた。などなど、備忘録としての記録写真。もちろんインスタ映えという言葉があるように、

「美味しそうなトマトが採れました!」「丸々としてきれいなブドウです!」

「サツマイモがたくさん採れました!」「ズッキーニがこんなに大きくなりました!」

「どやっ!」という思いで載せているケースもある。

ハッシュタグに「農業」とつけると、新潟はもちろん、日本全国あちこちの農家の方が僕のインスタグラムをチェックし、イイネを押してくれる。

イイネを押してくれた人のインスタグラムをたどってみると、北海道のジャガイモ農家さん、群馬のレタス農家さん、愛媛や和歌山のミカン農家さん、鹿児島のサツマイモ農家さんと、その土地ならではの写真が掲載されていて、全国各地の農家さんの活動もうかがい知ることができる。

中には動画で種まきや収穫の技を紹介しているものもあり、その卓越した技術に思わず見入ってしまうことも。

そんな全国各地の農家さんの写真を眺めていていつも感じるのは、

「ここんちの畑、いい畑だな~」という思い。「隣の芝生は青い」ということわざがあるけれども、まさしく「隣の畑は青い」と感じてしまう嫉妬心だ。

別に自分とこの畑に引け目を感じているわけでもないのだけれども、遠く山並みを望む畑の風景や、広大な大地。丸々としていて真っ白なダイコンがズラッと並んだ写真に目を奪われ、「すげぇ~」と感心してしまうのだ。

そんな写真を見ながら学ぶことも多い。他の農家さんの作業風景を見て、自分の農作業にも生かしてみようと実践してみたこともたくさんある。

インスタグラムはいい教材にもなるしいい刺激にもなるし、SNS上での農家友達もできた。

最近のお気に入りは農作業をするお母さんや農家のお嫁さん、娘さんのインスタグラム。収穫した作物を手に、陽の光を浴びて満面の笑みを浮かべている。みんなキラキラしている。トラクターを操作する姿もカッコイイ。

今回のコラムの最後にどうでもいいことをカミングアウトしよう。

僕は“オーバーオール”や“サロペット”の似合う女性が好みのタイプです。

(2021.02.26:コラム/遠藤洋次郎)

第17話 ニヤケがとまらない!?

本当は1月中にやっておきたかったブドウの剪定に、先日ようやく着手した。

いよいよ2021年農作業シーズンのスタート!である。

秋の味覚の代名詞『ブドウ』銘柄は『巨峰』

ハウスには2本のブドウの木があり、農作業を始めるにあたってこのブドウの管理も手掛けるようになった。
先代が大切にしてきたブドウの木なのだが、正直なところ、ブドウ栽培のノウハウは全くわかっていない。冬の間に剪定をしなければならないことはわかっていたけれども、どのように枝を切っていのかもよくわからない。

しかも今年は雪が多く、ハウスへの道は閉ざされ、雪が解けてもあまりの寒さに、ハウスへ行くのもめんどくさくなっていた。

「やらなきゃ…やらなきゃ……」と思いながら1月が過ぎ、その間も一応、動画や本、ネットでブドウの栽培方法について勉強していたけれども。
それでも剪定の仕方はよくわかっていない。

そもそもなぜ、冬の間にブドウの枝を切っていかなければならないのかというと、前にもちょこっとコラムで書いたが、ブドウの木もジッとしているようで、実は花を咲かせ実をつけるための準備を冬の間にしている。

枝が伸びすぎていると、伸びた先の枝にまで養分を送らなければならないので、たくさんの養分が必要となる。枝が短いと、花を咲かせ実をつける養分をより多く供給することができる。つまり、みずみずしくて美味しいブドウの実をつけるには、冬の間に枝を切り落としておかなければならない。

剪定の仕方が良く分からないままはじめた昨年の剪定作業は、戸惑いやためらいも多く、多くの枝を残してしまったように思う。もちろんたくさんの実はついたし、おかげさまで味の評価も高かったのだけれども、実をつけすぎたと反省している。

なので、今年は思いっきって剪定してみた。

昨年と比べれば収穫の量は少なくなるかもしれない。でもその分、味の良いものをつくりたい。食べてくれた人が「美味しい」と思ってもらえるブドウをつくりたいと、農家としてのクリエイター魂に火がついた。

いくらで販売しようか?どうやって販売しようか?そんなことも考えながらの剪定作業。頭の中では「チャリンチャリン」とお金の落ちていく音が響く。顔のニヤケがとまらない。

いやいやそれは、ちゃんとブドウが育ってからの話であって……。

今年も秋に、無事にブドウが実をつけてくれることを心待ちにしている。

(2021.01.2.19:コラム/遠藤洋次郎)

第16話 簡単ペパーミント!

畑仕事を始めたばかりの頃、初心者でも簡単に育てられて手間もかからない、種を蒔いたらそのまま放置しても構わないような、そんな都合のいい野菜はないだろうかと探してみた。

ホームセンターの種コーナーに並んだ、さまざまな種。袋を見返すと育て方も載っている。

水はけのよい土で、土壌酸度はpH6~6.5。養分を漉きこんだ畑に、幅○センチの畝を立てて、不織布を覆い、害虫の対策は……ああ、もう何を言っているのか分からない!

求めているのは「種を蒔く」「水をやる」「育つ」の簡単な順序で手間暇かけずに楽しめるお野菜。ついでに言うならプランターでも育つ、超初心者向け簡単お野菜。

そんなに都合のいい野菜は見当たらなかったけど、その時手にしていたのはペパーミントの種。『プランターでも美味しいミントが簡単に収穫できます』といううたい文句に、「これだ!」と思い、土とプランターといっしょに種を買い、さっそく育ててみることに。

夢がふくらむ。

以前、バーテンダーさんから教えてもらった美味しいハイボールのつくり方。

ハイボールのジョッキに氷とウイスキー。炭酸水は氷に当たらないようゆっくり注ぐ。マドラーでかき回すときもグルグル回さずゆっくりと1回、2回…。最後に軽く手でたたいたミントを添えて爽快感をプラス。

「これだ。我が家でこれを実践するのだ。ああ、待ち遠しい。早く芽を出せペパーミント!」

やがてプランターからミントの小さな芽が出てきた。

この芽が出てくる瞬間はいつだってワクワクする。そして最高にうまいハイボールへの思いがより色濃くなってくる。

ペパーミントというものは繁殖力が強く、それゆえ、誰でも簡単に育てることができるのだが、我が家のプランターでも思いのほかたくさんのペパーミントが葉をつけた。

そぉっと漂ってくる爽快なミントの香り。一つつまんでみると指先からも爽やかな香りが漂ってくる。

ミントの葉を何枚か収穫し、待ちに待った一杯をつくる。できあがったハイボールは炭酸が勢いよくはじけ、自ら育てた摘みたてのミントの香りが鼻腔をくすぐる。のどが鳴る。

「ああ、幸せ~…この一杯を待っていたのだ。」

ペパーミントは大収穫だった。摘んでも摘んでもなくならないくらいに繁茂した。

だが、ハイボールに添えるくらいしかミントの使い道を考えつかなかった私は、その日、かるくボトルを空け、かるく意識も飛ばしていた。

(2020.02.12:コラム/遠藤洋次郎)

第15話 百姓ってのはどう?

「農業をする人」を意味する“百姓”という言葉は、差別的な表現で使われると言うことで放送禁止用語になっている。でもこれの言葉にはたくさん(百)の仕事(姓)という意味が込められている。姓(苗字)はもともとその人がどん仕事をしているのかを示す、肩書のようなものだった。

僕も「フリーアナウンサー」という肩書は掲げているけれども、勤めていたラジオ局がなくなってしまった手前、アナウンサーと言うのも少々はばかられる。

「で、最近ようじろうは何をしているの?」と、尋ねられることがある。一瞬言葉につまる。

WAVE CREATIONという会社の代表。声の仕事をしています。畑仕事も……。

「う~ん。結局自分は何をしているんだ?」と頭を抱えることもあったけど、

「最近の僕は“百姓”やってます」と答えてみようと心の中で準備している。

そう答えたところで相手は「???」という顔を浮かべるのも想像できるのだが…。

昔の人たちは畑仕事をしながら、空いた時間や冬の間にもいろいろな仕事をしていた。

大工や左官屋、畳屋。先生や医者もいたという。

自分の得意なこと、好きなことを生かして、生活の糧にしていた。

僕の近所を見回してみても、多くの農家は兼業農家だ。

本業をしっかりやりながら、田植えの時期や稲刈りの時期は休みを取って田んぼに出かける人もいる。僕も用水路の掃除をしたり、田植えの前にネズミ退治をしたり、人手が足りないからと言って稲刈りの手伝いに行ったこともある。

「うちは百姓だよ」という近所のおじさん。自分で農機具の修理もするし、風で吹き飛んだビニールハウスも直していた。もともと電気工事の仕事をしていたので手先が器用。困ったときには助けてもらっているし、とても尊敬している。

一つの道を究め、プロフェッショナルになるという思いも大切。

でも自分はいろんなことができる人になりたいな…と思う。

いろんな働き方があっていいと思うし、立派な肩書がなくっても、“百姓”をしていることは立派なことだ。

さてさて「自分は百姓だ」と言ってみたところで、自分のできることなどたかが知れている。

“百姓”と言うのならば自分のできること、できなくてもやってみたいことを100個あげようと思っても、悲しいかな、2個3個ぐらいしか書き出すことができない。

(2021.02.05:コラム/遠藤洋次郎)

第14話 落ちた場所で生きる

小さな種を手に取ってじっくりと眺めてみる。
そのたびに、「これがあんなに大きな野菜になるのか?」と不思議に思う。
この一粒の中に、芽を出して葉っぱを広げ、花を咲かせて実をつけるいろいろな“素”が詰まっているんだ……と感心してしまう。

子どもの頃に育てたアサガオやヒマワリの種は、それでも大きい方で、吹けば飛ぶような、それこそタンポポの種のような、小さな種もある。取り扱いには注意しなければならない。
ニンジンの種なんて、だ。
いやいや、文章の書き間違いではなく、掌に載せてみてもニンジンの種の一粒一粒は「、」でしかない。もう「、」にしか見えないのだ。
小さい種は「スジまき」という蒔きかたをして、一粒一粒を丁寧に植えていくのではなく、畑の畝に溝をつくり、そこにスーッと一列に種を蒔いていく。
つまり、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、と種を蒔いていき、成長の過程で大きい株だけを残し、間引きをしていく。

カブの種も小さい。
その昔、いざ、カブの種をスジまきしようとして、畑に入ったところ、足をすくわれ種をぶちまけてしまった。
こうなってしまうともう収拾がつかない。畑のまん中でただ茫然と立ちつくしているほかない。拾い上げようにも土にまぎれてどこに種があるのか、探し当てることは無理なのだ。
数日後、カブの種たちは畑のあちこちから芽を出していた。
ぶちまけてしまったその場所で種はしっかりと根をはり、芽を出していたのだ。驚くべき生命力。小さなカブの種は、ぶちまけられたその場所で、生きることを決めたのだ。

その昔、アスファルトの隙間に生えたダイコンが「ど根性ダイコン(通称大ちゃん)」として紹介されていたが、蒔かれた種はその環境で成長しようと根を張っていく。
悲しいかな。
種たちには根をはり、葉を伸ばす環境を選べない。
だから、できるだけ生育に適した良い環境で育てたいと思う。

以前、車の中でチンゲンサイの種をぶちまけてしまった。
残った種を袋に入れていたのだが、袋の口が開いていたらしく、車が揺れた瞬間に開いた口から種がバラバラとこぼれ落ちてしまった。
さすがに車の中で種は根をはらないだろうし、大きくなってしまっても困る。
小さな種一粒ずつ指でつまみ上げ、袋に戻していったけど……。

きっとまだ、車の中で発芽を待つチンゲンサイの種が残っていると思う。

(2020.01.29:コラム/遠藤洋次郎)

第13話 目覚めの冬

コロナの影響もあってか、家でじっとしている時間が多くなった。

「ちゃんと自粛しているんだよ。うんうん」
と自分に言い聞かせているけれども、手帳を見ても、司会の仕事やセミナーの仕事、イベントの予定は書きこまれていない。
春に向けての農作業の準備を…と思っても、農閑期である。
畑を耕すわけにもいかないし、種を植えたり苗をつくるのにも、まだその時期じゃない。種カタログを眺めているといっても、ひねもすそんなことしてるわけにもいかない。
しかも寒くて布団から抜け出せない。
体を動かすのもメンドクサイし。
ああ、春が来るまで寝ていたい!

春に芽を出し、夏大きくなる野菜の種たちは、この寒い時期は何をしているのだろう?
ふと、そんなことを思って調べてみた。
種というものはよくできたもので、自分が芽を出す条件が整っていないとずっと寝ている。
水がなくても、酸素がなくても、種は種の状態でじっとしている。
『休眠状態』というのだが、この休眠というのは、種が生き、生長するために種自らが身につけた能力。

そして冬の間、気温の低い日が続くと、種はこの休眠状態から目覚める。そう。種を眠りから覚ますのは“寒さ”なのだ。

種A「いやぁ…寒いねぇ。起きた?」
種B「うん。起きた起きた。いや、ほんと寒いわ~」
種A「お前さんはいつ頃芽を出すんだい?」
種B「気温が20℃くらいになった頃がちょうどいいかな~」
種A「それくらいだと暖かくてちょうどいいね」
種B「その頃は春だね~」

寒い時期の種は、じっとしているように見えて実は目覚めている。
何もしていないように見えるけれども、種の中では来るべき時に向けての準備をしている。
来るべき時に、根を張り、芽を出し、花を咲かせ、実をつけるために。
そのために必要なのが“寒さ”なのである。
人間だってそうだ。ずっとぬくぬく生きてはいられない。
寒くてつらいと思える時期があるからこそ、成長していくのだ。

さあ、ようじろう、目覚めよ!今こそ布団から抜け出す時なのだ!

(2020.01.22:コラム/遠藤洋次郎)

第12話 シーズン前のワクワク

2021年の幕開けは、大雪に見舞われた新潟。

寒波の到来で風も強く吹き、ブドウの木が植えてあるビニールハウスのビニールが破れてしまいました。なんともトホホな新年のスタート。
そんな中でも、今年はどんな野菜を育ててみようか…と思いを膨らませている1月。

この時期は今年1年の『野菜作り計画』をざっくりと立てることにしている。
雪が解けたら耕運機を動かして土づくり。
畝をつくって、種を蒔いて。
そうそう、いろんな野菜の苗づくりも。
大好物のエダマメをたくさんつくりたい。
今年こそはトマトづくりを成功させたい。
珍しい野菜も作ってみたい。
実はこの、野菜作りのイメージを広げている時間がけっこう楽しい。

春の日差しを一身に浴びて、思いっきり土のにおいを嗅ぎ、日ごろの運動不足解消にと鍬をふるい、気持ちの良い汗をかく己の姿を想像する。
水やりや手入れはちょっとメンドクサイな…と思うけど、芽が出て、花が咲いて、実をつけて。採れたての野菜を口いっぱいにほおばる己の姿を想像する。
ほら、楽しそうでしょ?

突然話は変わるが、私の愛読書の一つに『選手名鑑』がある。

プロ野球、Jリーグ、高校野球、大学野球、箱根駅伝などなど。
スポーツ観戦に必携の選手名鑑は、毎年購入し、ひいきのチーム、注目の選手の情報を一つ一つ拾い上げていく。
いよいよ開幕するぞ!というその直前に、丸一日かけて選手名鑑を熟読しながら自分の気持ちを高めていく。ワクワクを募らせていくのだ。そして選手名鑑と同じように、この時期『種カタログ』を熟読している。

『トマト』だけでも大玉、中玉、ミニトマト。
真っ赤なトマトにオレンジ色のトマト。
甘みのあるもの酸味のあるもの。
トマト料理のレシピも紹介されていて、カタログに載っているトマトの種は30種類を超えている。

白いナス、紫色のオクラ、中が黄金色のハクサイ、黒い粒のトウモロコシ。カタログには見たことも食べたこともない野菜の種もずらりと並んでいる。

「どうやって育てるの?」
「どうやって食べるの?」
「そもそもこれ美味しいの?」

種カタログを見ているだけで、いろいろと好奇心が湧いてくる。

今年はどんな野菜たちとの出会いがあるのか。
また、畑仕事を通してどんな発見があるのか。
失敗することなど考えもしない、ようじろう農園シーズン前のこの時期は、1年で最もワクワクする時期である。

(2020.01.15:コラム/遠藤洋次郎)

第11話 環境って大事

一度耕すのをやめてしまった土は、なかなか元に戻らない。

ウチの農園も、何年も手入れをしないでそのままほったらかしにしていたところなので、土は固く、水はけも悪い。たっぷりと水を含んだ畑は、一度足を踏み入れると、なかなか抜け出すことができない。

雪道で車がスタックしてしまい、立ち往生している。新潟で暮らしているとそんな光景をよく見るが、僕も以前、耕運機が畑の中でスタックしてしまい、泣きそうな思いをしたことがある。
土の質を改善することは目下の課題。
畑は、土と水と空気のバランスが大切なのだ。
海沿いの畑でスイカの栽培が盛んなのは、水はけのよい砂地がスイカの栽培に適しているから。逆にレンコンなどは水の中で育つので、水持ちのよい畑が適している。

野菜の種類によって、それぞれ適した環境というのがある。
野菜たちがすくすくと大きくなる環境。それを整えていくことも、農家の皆さんにとって大事な役割なのだ。野菜たちはとても素直だ。

種を蒔かれた畑の環境によって、葉を青々と茂らせたり、きれいな花を咲かせたり、実が大きくなったりする。もちろん中にはへそを曲げる野菜もいるかもしれないが、農家さんは種まきの前に畑の土づくりにいそしむ。

そして野菜たちはとても寡黙だ。

「お腹がすいた!」「水をくれ!」といって泣きわめくこともないが、葉っぱが枯れてしまったり、実のつきかたが悪くなってしまったり。農家さんは寡黙な野菜たちが発するサインを見逃してはならない。

いやはや。本当に、環境って大事だなぁ。

固い土、水はけの悪いウチの畑の野菜たちは、みんなやんちゃに育っている。
やんちゃな野菜も確かにかわいいけれども、丸くて赤々とした美しいトマト、すらっと伸びた美白のダイコン、粒のつまった黄金色のトウモロコシもつくってみたい。
目指すは、野菜たちが元気にすくすくと大きくなれる環境づくり。

そして僕も、新潟というこの土地の環境にどっぷりはまって、すくすくと大きくなっている。
美味しいお米に野菜、お酒。名物料理や名産品がたくさん。

そんなもんだから、たっぷりと栄養を吸い込んで(横に)大きくなっている。

※遠藤洋次郎氏ではありません

(2020.01.05:コラム/遠藤洋次郎)